静かな月夜の隅っこで。 |
トゥルルルル… トゥルルルル… 冷く深い夜の下。 公園の中にある、小さな避難所。 自分独りだけの最小の空間。 今の時代、公衆電話は貴重な存在だ。 『――ハイ』 コール10回で、フツリと電話の回線が切り替わる。 膝を丸めて受話器を耳に押し当てながら、サンジは聞きなれたそのタイミングにそっと耳を傾けた。 『ロロノアです』 録音された留守電の声。 低く落ち着いた、サンジの心をそっと撫でていく、その声。 唇の端で、小さく笑う。 今でもこうして目を瞑れば、どこか怒ったようなその顔が浮かんで消える。 『あー…いません。用がある奴は』 息を吸い込んだまま、音声はそこで数秒の沈黙。 今でも覚えている。 奥でサンジがゾロの背を蹴り、大笑いをしたからだ。 数秒ののち、ゾロが小さく舌打ちをする呼吸音が聞こえた。 『…っ、ここにメッセージを残せ。以上』 今でも、覚えている。 あの時の、あったかな空気。 辛い事や寂しくなった時、サンジは時々そっと、こうして電話を掛ける。 ゾロが絶対居ないであろう時間を見計らって。 そっと、小さく身を寄せる。 再び数秒の空白の後、ピ、と機械が録音モードに切り替わる寸前で、サンジは腕を伸ばしてガチャリと電話を切った。 マニュアルを読みながら、渋るゾロをけしかけてサンジが録音させた音声メッセージ。 機械に頓着のないゾロは留守電のメッセージボタンが点滅していたとしても確認すらしないだろうが、それでも痕跡は残したくない。 サンジはそっと息を吐いて、電話ボックスから空を見上げた。 少しだけ欠けた、綺麗な満月の残り。 ずっと遠くに置いてきてしまった、大事なもの。 好き、だった。 でもそれは友人としてで。 ――嘘だ。 ……でも。 そのラインを越える勇気もなく、けれどたまにこうして振り返ったりする。 「メリー、クリスマス♪ぞ、ろ〜」 誰もいない公園で、小さな独りの箱の中で、小さく歌う。 冴えた月が、わずかに滲んだ。 end |