春の宵 |
「好きだ」 そう言った途端目の前にいたゾロに噛み付かれるように口を塞がれて押し倒されて、サンジは仰天した。 本当はそのあとに「なーんてな、信じたかクソ剣士?今日はエイプリルフールって言うんだぜ」 って軽い口調で続けるつもりだったのに。 咥内を蹂躙する厚い舌に言葉どころか息継ぎも危うい。 こんなつもりじゃなかった。 ただの冗談だった。 けれど、それでも。 どうしたって自分の目は真剣にゾロを見つめてしまっていたのだろう、きっと。 ……だから。 背中には硬い甲板。 船から見える暮れてきた海と灯る町並みが次第に潤み始めてきたあたりで、 サンジは黙ってゾロの背に手を回した。 * * * すっかり暮れてしまった海をぼんやりと眺めて、小さく溜息をつく。 背中に当たるのは酷く暖かいゾロの温もり。 さっきから黙ってサンジを抱いて同じ海を見ている。 逃げようと思ったのに何故か一向にその腕は緩まず、結局サンジが折れて今に至る。 今日がエイプリルフールなんて、ゾロは知らないだろう。 サンジの告白を真に受けて、きっとそれに答えた。 それは嬉しい、けれどからかうつもりで告白したなんて、もう言えない。 自分の気持ちは嘘じゃないけど、 こんな日に紛れ込ませて言葉にしてしまったことが悔やまれる。 きっといつかゾロはこの日の意味を知るだろう。 その時サンジの言葉とこの気持ちは、ゾロにとって価値を失ってしまう。 なんでこんな日に言っちまったんだろう、と 惨めな気持ちで肩を落としたところで、はぁ、と盛大な溜息が背後から聞こえた。 「明日」 耳元にぴたりと押し当てられる唇。 深い声が波音を抑えてサンジを揺らした。 「明日もう一度言葉にしてみろ」 「そうしたら、俺も今度は言葉にしてやる」 囲いを解いて振り向こうとしたサンジを、ゾロの腕は許さなかった。 けれど合わさった肌から伝わる鼓動に、その真実を知る。 どきどきと高鳴り始めた心を抱えて、 サンジはもう一度海を眺めて、黙って今日が終わるのを待った。 |